GOKOTI平山遥さんおいしい旅の記憶

#11「マチュピチュ」だけじゃない。ペルーは、フュージョン・未知食材が奏でる美食の国。<ペルー・クスコ後編>

バルと化した調理実習。ペルー料理で、世界の4大陸を周遊しました。

前編でご紹介した通り、すっかりペルー料理ファンになったわたしは、クスコ旧市街の「マルセロ バタタ クッキング クラス」に参加しました。

この料理教室の魅力のひとつは、ペルー料理の歴史やアンデスの食材について、たっぷり教えてくれること。ふたつめは、ひと通り自分で調理させてくれること。そして何より大好きなお酒がたくさん呑めること。今回は4時間におよぶ料理体験のハイライトを、コンテンツごとにご紹介します。


“じゃがいものふるさと”で、食材を味わう。

食材レクチャーといっても、単に話を聞くだけじゃありません。実際に見て、触れて、味わうことができる、体験型の講義です。1限目の始まりは「南米フルーツの食べ比べ」。9種類のフルーツを試食しました。サワー感、青味感、甘味、食感の違いを愉しむことができます。いずれも甘さは重くないので、間食にはうってつけ。



▲日本のスーパーでは顔をみせないカラフルな果物たちが大集合。

 

次にキッチンの隣にある食品庫へ移動し、アンデス原産作物の代名詞「じゃがいも」「とうもろこし」とご対面。クスコを含むアンデス中央部は、5,000m級のアンデス山脈に覆われた標高が高い山岳地帯。気温が低く降水量が少ないんです。栽培できる作物が限られる厳しい自然環境下で、「じゃがいも」「とうもろこし」は、インカ文明の発展・人々の暮らしを支えてきた“食の大黒柱”です。

驚いたのは、その種類の豊かさ。食品庫内だけでもそれぞれ10種類ほど確認できました。じゃがいもにいたっては、ペルー産だけで3,000種類以上もあるんだとか。さすが、じゃがいもの起源地!まだ見ぬお宝を探すような、好奇心をくすぐられる食材鑑賞でした。


▲茶色・茶褐色以外にも赤・紫・マダラ模様などがあり、大きさや形状も個性的。じゃがいも・とうもろこしの食べ比べもしてみたかったです。


“フュージョンの歩み“を味わう。

2限目は、ピンチョスを想わせる芸術的なおつまみを食べながら、ペルー料理の歴史を学ぶ時間。このおつまみ自体、南米スパイスが使われている点や、じゃがいもが主役であるあたりはとてもペルーらしいのですが、「スペイン料理です」と出されても信じてしまう仕上がりで、フュージョン(融合)を感じさせました。正直食べることに夢中で、シェフの話にあまり集中できなかったのは、ここだけの秘密です(笑)。


▲鶏肉・エビ2種類のカウサ/カウサとは、ジャガイモを潰したものに黄色トウガラシを混ぜた「ペルー風ポテトサラダ」のこと。通常はケーキのような盛りつけですが、この一皿は独創性の高いお洒落なピンチョスでした。


リマ編でも少し触れましたが、ペルー料理は、さまざまな国の食文化を尊重し、地元料理と融合することで進化してきた、日本顔負けの「フュージョンの匠」です。スペインの支配下にあった時代に、ヨーロッパの食材や調理法が浸透。奴隷として連れてこられたアフリカ人たちの文化が調合されたといいます。

さらに中国移民が19世紀末にペルーへと渡ったこと、1960年代日本企業の進出にともない日本移民たちが急増したことが影響して、両国の食のエスプリがペルーに根づいたのだとか。歴史を知ると、ペルー料理が日本人の口にあうと言われる理由がわかりますよね。


▲スペインの「パン・コン・トマテ(トマトとニンニクのすりつぶしを塗って焼いたパン)」と、ペルーの「ア・ラ・ワンカイーナ(濃厚チーズと黄色とうがらしのソース)のコラボレーションスタイル。エビも添えられていて、シーフードピザに近い味わいです。


▲パパ レジェーナ/ペルー風コロッケ。一口サイズにカットされた上にイタリアの生ハムを添えています。

 

国の“看板メニュー”を、調理してみる。

バックグランドを理解したら、3限目は調理の実践です。この日挑戦したメニューは、ペルー料理を代表する「セビーチェ」「アルパカ・サルタード」の2品。「セビーチェ」は、魚介類をライムでマリネした前菜で、なんとインカ帝国時代以前から作られてきたとも言われる、世界遺産級の国民食です。作り方はかなりシンプル。白身魚をひとくちサイズにカットして、みじん切りにしたレモンドロップペッパー・コリアンダー・ライム果汁、その他調味料を混ぜ合わせるだけです!


▲「セビーチェ」のポイントは、ライムジュースをふんだんに使うこと!酸味が強すぎず、芳香が食材たちを丸くまとめてくれます。


生魚の臭みは一切なく、魚介の旨味・ライムの酸味・香草の香りが、皿のうえでお互い高め合っている逸品。国民的スーパードリンク「むらさきとうもろこしジュース」と一緒にいただくと、コーン本来の甘さが上手に仲間入りしてくれて、すばらしい“味変”も楽しめました。カルパッチョ好きなら絶対ハマると断言できます。


▲見よう見まねで盛り付け!さまになっていますかね?


▲「セビーチェ」の出来上がり。ローストした大粒コーン、ボイルしたスイートポテトを添えました。

 

「アルパカ・サルタード」は、アルパカのお肉を使った野菜炒め。既に何度もアルパカのお肉を食べていたので、もう動じません!むしろ印象的だったのは調理法。調理器具・調味料(醤油・鶏ガラスープ)がまさに中華!ペルーに来て、中華鍋を振るうなんて想像していませんでしたが、食の歴史を聴いたら合点がいきます。


▲(動画)まずは目の前でシェフがお手本を披露してくれます。

 

具材を入れる順番・タイミングがかなり重要で、慣れない重たい中華鍋を振ってすばやく炒めます。シェフに「急いで」とせかされながら(笑)。途中でペルー産蒸留酒「ピスコ」でフランベする工程は、ペルーらしさを演出するポイントです!ペルーの食材と中華の調理が組み合わさったこの料理は、醤油の塩味とペルー産唐辛子の辛味、野菜の甘味、アルパカ肉の旨味のハーモニーが絶妙で、白いご飯がすすむ一皿でした。



▲自分の背丈をゆうに超える炎の勢いに思わずあたふた。調理中にこんなに“身の危険”を感じたのは初めてでした!


▲完成した「アルパカ・サルタード」。パプリカ・トマト・玉ねぎと炒めたアルパカ肉は、柔らかくてジューシーでした。


「ピスコ」と、しあわせに、ほろ酔う。

シェフはとても気前が良くて、レッスン中次々とお酒を出してくれました。もはや料理教室というより、バルに集う酔っぱらいたちの“お酒のアテ”づくり。お気に入りは、「セビーチェ」の実食でたしなんだ「ピスコサワー」。「ピスコ」とは、ペルー産の無色透明のぶどうの蒸留酒です。1杯目はシェフお手製、2杯目は自分でシェイカーを借りて作ったもので乾杯しました。


▲(動画)「ピスコ」はネットでも買えるので、シェフの作り方を参考に、おうちで「ピスコサワー」づくりを実践してみてください。

“やさしさ100%”のふんわりクリーミーな味は、たまりません。ライムの酸味と最後に数滴たらしたビターの苦味によって、甘ったるさがまるでなく、実に飲みやすいんです。そんな口あたりとは裏はらに、アルコール度数は40度以上。気づいたら泥酔になっていてもおかしくない、おいしくて危険なカクテルなのでご注意を(笑)!

 


▲奥が「ピスコサワー」、手前が「チルカノ(ピスコをパッションフルーツジュースとジンジャーエールで割ったカクテル)」。

 

料理もお酒もすすむし、シェフのジョークというスパイスも効いて、とにかく終始上機嫌。笑顔で顔が筋肉痛になるほどでした。レッスンを終えるときには、すっかり酔いが回っていたことを記憶しています。


▲しまいには、コカやジンジャーなどを漬け込んだ数種類の「ピスコ」をロックで飲み比べました。

 

ペルー編・エピローグ 〜ペルー料理は、幸せな“底なし沼”〜

このおいしい出会いによって、「セビーチェ」は私のなかの“好物ランキング”のトップに躍り出ました。週末になると度々食卓に並びますし、友達が家に集まるときにもよく振る舞います。仕事で都内へ出るときには、ペルー料理レストランを探します。もう、心地よい食卓の時間をつくるうえで、欠かせない存在になっているようです。

 美食会注目のレストランとナスカの地上絵が登場▶<ペルー・リマ編>も!

これまでの連載はこちら▶おいしい旅の記憶


平山 遥 Hirayama Haruka
カナダ・トロント生まれ、東京育ち。数年前から鎌倉暮らし。リクルートコミュニケーションズで、広告制作ディレクション・WEBマーケティング・サービスデザインの領域に従事。現在はコンサルタントとバイヤーという二足のわらじに奮闘中。週末の海辺散歩、月に1度の国内旅行、年に1回の海外旅行でリトリートするライフスタイルを満喫している。Instagram:@travelife_haruka0530

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