#2 自分の感覚が、これからの時代の羅針盤

鎌倉在住でネイチャーセラピストとして活動する内藤記世さんのコラム。自然とともに生きること・暮らすことの豊かさを伝えてくれます。連載第2回のテーマは、「感覚と心の関係」。めまぐるしく変化する時代の中で、自分が本当に好きなものや、やりたいことを見つけるヒントがつまっています。

感覚をひらく


草花もぐんぐん伸びて躍動感を感じる春は、心も踊ります

ピンク、黄、赤、と色とりどりの花が咲きほこり、潤いにみちた黄緑の葉っぱが木々を飾りはじめ、鳥たちがそれぞれの声色を響きわたらせるそんな季節になりましたね。冬は、底力からくる生命力をひしひしと感じますが、春は生まれたての飛び跳ねるような生命力を感じます。自然の中には、生命エネルギーを循環させ、人間の感覚を呼び覚ましてくれる要素がたくさんあります。

私がネイチャーセラピーを行ううえで、とても大事にしていること、それは“五感や感覚をひらくこと”です。

日常生活で知らず知らずにとじてしまっている感覚が、自然の力を借りるとゆるんでひらいていきます。人間は、心地よくない匂いやもの、雑音などを感じると防衛本能として感覚をとじたり鈍らせたりもするので、私も定期的に、意識して自然に触れるようにしています。

みなさんもお花の匂いをかいでいい香りだなと感じたり、川の流れる音や波の音を聞いてリラックスできたり、焚き火をながめて心が落ち着いたりした経験があると思いますが、これは五感や感覚が刺激されて、心が動いているからなんです。今回は、感覚と心の関係についてお話ししてみたいと思います。


感覚と心のしくみ


ヒノキゴケという苔。私の中で心のひだはこんなイメージ

 

感覚には、五感のほかにも、痛覚や圧覚、冷温感覚、運動感覚、平衡感覚、内部感覚などがあります。辞書によれば、感覚とは「外界からの光・音・匂い・味・寒温・触などの刺激を感じるはたらきとそれによって起こる意識」。


その瞬間の外界からの刺激はもちろんですが、私自身の体感からいうと、記憶からの刺激も感じとると思っています。みなさんも、今この瞬間にはなにも起こっていないけれど、過去の出来事が思いだされて胸が苦しくなったり、はたまた急に思い出し笑いをしてしまったりというような体験があるのではないでしょうか。

人間は、外界や記憶からの刺激を感覚でキャッチし、キャッチした情報を心で深く感じとりにいきます。この感じとりにいくはたらきを、〝感受性〟といいます。つまり、感覚は情報をキャッチするセンサーであり、心は情報を味わう器みたいなものです。

感覚がひらいているとセンサーが反応しやすいので、いろいろな情報をキャッチして深く味わうことで、心が反応して動く…という状態になります。

では、この感覚と心のしくみが日常でどのように役立っているのかもお伝えできたらと思います。


感覚は心の声に気づくツール


光のグラデーションを見たときは、思わず心が動いて写真を撮ってしまいます


まず、感覚がひらいていると微細な変化を感じとれるようになります。0か1で成り立つデジタルでは表現できない、0〜1のあいだにあるグラデーションのような変化です。

本来、この変化を人間は感じとることができています。陽の光や波の音、虫の声など自然界は、このような微細なゆらぎをもつ動きでできているのですが、人間自体もこの微細な動きで成り立っています。心臓の鼓動もそうですし、脳波もそうです。人間は自然の一部といわれますが、人間の動きが自然界の動きと同じリズムと知ると、より納得感がありますよね。

そして、微細な変化を感じることは〝気づき力(観察力)〟にもつながっていきます。私は常々「感覚は自分の心の声に気づくためのツール」だと思っているのですが、感覚をとおして微細な変化に気づき、それを心で深く感じる工程が、心の声にたどり着くひとつの方法だと思うからです。

やりたいことを実現するための選択肢が広がった今の時代に、自分の真の欲求や好きを知るにも、自身の感覚をひらき、そのサインを自分の心で感じとる、そんな力がとても重要になってくると感じています。

ただ、力は使いようで、上手く使いこなすことが大事になります。もともと感覚が敏感だった昔の私は、自分の感覚がキャッチしてくる情報を適切に処理することができず何度も感情の渦に飲み込まれたことがありました。

たとえば、微細な変化を感じとれると、気づいていなかった優しさや見えていなかった美しさを認識し、世界が温かく近くに感じられたりもします。一方で、それとは逆に、世の中に溢れる違和感も多く感じることになります。

20代までは違和感の波が押し寄せるたびに苦しくなってしんどくなって立ち止まっていたのですが、今では、その違和感と表裏一体にある自分の真の心の声に気づくヒントになると捉えることができるようになりました。



木の幹の横に座って、下から撮ったもの。視点を変えることで初めて見える美しい景色もありますね

初めは、微細な変化をキャッチすることで戸惑うこともあるかもしれません。でも、そんなときこそ心の声に気づくまたとない機会。その先にある、ご自身の心が創造する美しい世界を感じるきっかけになればいいなと思っています。

 

連載第1回 「短所が長所に!? 自然をとおして知る自分の魅力」はこちら

 


内藤記世 Naito Kiyo
大阪生まれ。世界遺産「高野山」に近く山深い和歌山県と大阪府の県境で育つ。大学卒業後、就職で東京へ。リクルートコミュニケーションズで広告制作ディレクションに携わった後、ロンドン留学。帰国後は、DIESELの広報宣伝部を経てフリーランスとなる。現在は、鎌倉に暮らし、Nature evangelist (ネイチャーエバンジェリスト)、森林セラピーガイドとして活動中。@kiyorin_n
公式HP
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