#1 短所が長所に!? 自然をとおして知る自分の魅力
東京で忙しく働く日々から、英国留学、転職を経て30代でネイチャーセラピストとしての活動をスタートした内藤記世さん。森と海に誘われるように移り住んだ鎌倉を拠点に、自然とともに生きること・暮らすことの豊かさを伝えています。連載第1回は、内藤さん自身の人生を変えた、自然との関わりについて。
自然との出会い
ネイチャーセラピストの内藤記世です。今から10年前、私は東京で昼夜問わず忙しく働いていて、その頃の自然との触れ合いといえば、たまの休みにいくキャンプや野外フェス、スノーボードくらいでした。
働きすぎていた私はあるとき、女性器官の調子がおかしくなり、親族が婦人科がんを患っていたことも相まって、身体を休めるために仕事を数か月お休みさせてもらうことに。先に身体に症状が出たものの、その頃は心も疲弊しきっていました。
お休みをもらってゆっくりする時間ができたのではじめたこと、それが山登りでした。こういうときふと立ち返るのは幼少期の原体験だったりしますよね。
山を登ったり、洞窟を掘ったり、川遊びしたり、虫を捕ったり、泥んこ遊びしたりと、毎日自然の中を走り回っていた幼少期が蘇り、私って自然が好きだったんだなと思い出したんです。
そのときはじめて自分には自然が必要だったとわかりました。自然から遠ざかっている生活習慣が心身の不調につながることを自然欠乏症候群と言ったりするのですが、当時の私の状態がまさに。
それからは休みのたびに、山に川に海に森にと自然の中へ足を運びました。すると本当に元気になっていったんです。心も身体も。もともと自然が必要なタイプだったからかもしれませんが、私には効果てきめんでした。
そして、この体験がのちに、今のNature therapy(ネイチャーセラピー)の活動へとつながっていきます。
▲甘縄神社のお気に入りのスポットから。自然と街が近いのが鎌倉のいいところ
自然に携わる
その後、すぐに自然関係の仕事をし始めたわけではなく、イギリスへ留学したり、帰国後も数年間会社員をしたのち、いろいろな心の変化や外的環境の変化に伴いフリーランスとなり、徐々に自然に携わることを仕事にしようと思い始めます。自然とともに生活することで心身が元気になるのは、私自身が体験していたので自然の恩恵によるその効果には揺るぎない自信があったのですが、より多くの方に伝えるにあたっては医学的や科学的に証明されていることも大事かもしれないと思い、森林セラピーガイド(※)の資格を取得しました。
※森林セラピーガイドとは、森林セラピーソサエティが認定している資格のひとつで、「森林を訪れる利用者に対して、森林浴効果が上がるような散策や運動を現地で案内する者」(森林セラピーソサエティHPより引用)
その知識をもとに、日々自然の中に入っていくと知識だけでは説明できないことや人間が証明できていないたくさんのことが自然の中には溢れていて、言語や数字にはならない魅力に私はますます惹かれていきました。
感覚が研ぎ澄まされたり
心が柔らかくなったり
自分のまとう空気が自然と同化したり
自然とコミュニケーションをとれるようになったり
そんな数値にはならないし、証明もされていない、だけど私の中で確かに感じる〝なにか〟に心が踊りました。
自然と接する中での感覚的な体験は、私のもともと持っていた繊細な性質が活かされた瞬間だったのかなと思います。
▲Nature therapyの様子。身体を自然に委ねて呼吸中
自然によって生かされる
4・5年前、心理カウンセラーをしている友だちに「きよちゃん、きっとHSPだと思うよ」と言われたことがありました。そのときの私は「H?S?P?」と、初めて聞いた英語の単語にハテナしか浮かびませんでしたが、診断テストを受けてみるとHSS型HSPだということがわかり、自分の特徴にこんな名前がついていたんだと知りました。
HSPとは、日本でも最近少しずつ浸透しつつあるHighly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)のことで、「生まれつき感覚情報を処理するプロセスが高度(深く細かい)で、とても敏感で傷つきやすく、共感力や直感力、想像力にたけた人」のことを言うそうです。ちなみにHSSとはHigh Sensation Seeking(刺激探求型)のことで、外向的で好奇心が強いタイプを指し、HSS型HSPとは「非常に敏感なのに刺激を求めてしまう人」のことだそうです。
これを知ったとき、小さい頃から苦しんできたり辛かったことに合点がいくようでした。気にしすぎる自分を責めたり、傷つきやすい自分に嫌気がさしたりと、いつも自己嫌悪になったりしていたので、この自分の特徴は生きにくいなぁとずっと思っていました。
ましてやそれがプラスになるなんてつい最近までまったく思ってもいませんでしたが、今になってようやく、わたしの敏感な感覚や豊かな感受性があったから、自然の微細なエネルギーを感じることができたのだと思うようになれました。自分の短所だと思っていたことが、自然をとおして長所になる。そんな体験をした私だからこそ、より自然によって生かされていると感じるのかもしれません。
▲Nature therapyの様子。裸足になってアーシング(地面とつながること)もします
Nature therapy(ネイチャーセラピー)の活動とは?
森林セラピーやタラソテラピーという言葉は聞いたことがありますか?
科学・医学的根拠に基づいて、森林や海には人の心や身体に良い影響があるということが証明されている自然療法のひとつで、簡単にいうと森林浴や海水浴ですね! 森林浴って、日本人がつくった造語なんですが、海外でShinrin-yokuとして使われているくらい昨今ちょっとしたブームとなっています。
そんな森林セラピーやタラソテラピーの内容を、私の体験や感覚をベースにカスタマイズしたものをNature therapyとして、自然を深く味わう体験のお手伝いしています。
山も森も海も川も空も大地も動物も植物も、そして人もすべての自然のエネルギーを(循環させて)感じながら、自然の中で、心身を癒しリラックスしてもらったり、五感をひらいてご自身の感覚を取り戻してもらったり……。証明された効能だけにとどまらず、目に見えない感覚や呼吸、エネルギーへもアプローチしていきます。自然のパワーを借りながら、ご自身の感覚をひらき、自分にしかない感覚や感性を大事にすることで、私自身が体験したように、この地球で生きていくことが楽しく心地よいと感じてもらえればいいなと思っています。
▲キラキラ、太陽の光にあたってますます美しい植物たち。お花は、見てもらいたくて咲くらしいですよ
これからの自然との関係性
自然とともに生きること・暮らすことを意識しはじめて、私の中でも自然との向き合い方や接し方が徐々に変わってきています。
自然と関わるこの仕事を始めた当初は、自然の織りなす美しさや清らかさ、癒し、そして恵みを私に、私たちに「ありがとう」という想いだけで、どちらかというと人間からの一方通行の接し方だった気がします。ですが、今ではありがとうの気持ちの先に、〝可愛い〟や〝愛おしい〟が芽生え、この地球上に住む同じ仲間なんだと心から思うようになりました。
森へ入るときは、お友達のお家にお邪魔するように「おじゃまします〜」と挨拶します。耳をすませば、木々さんたちも葉っぱを揺らして、どうぞ〜と言ってくれているように感じます。木に登るときも、幹に手をあてて「登っていいですか?登らせてくださいね」と想いを伝えます。そうすると気持ちが通じるのか?、包み込まれる安心感や温もりが木さんから伝わってくるんです。
人間と同じ言葉は話しませんし、人と人のコミュニケーションとは少し違うかもしれませんが、自然も私たちとコミュニケーションをとろうとしてくれているのだなと感じています。
占星術では、2020年12月末から風の時代に移行したといわれています。風の時代のキーワードはいろいろあるようですが、そのひとつが「上下の関係から横の関係へのシフト」なのだとか。
来たる風の時代に、自然界も人間、動物、植物のようなピラミッドの関係ではなく、人間科、動物科、植物科のように横の関係へシフトしていけたらいいなと個人的に思っています!
内藤記世 Naito Kiyo
大阪生まれ。世界遺産「高野山」に近く山深い和歌山県と大阪府の県境で育つ。大学卒業後、就職で東京へ。リクルートコミュニケーションズで広告制作ディレクションに携わった後、ロンドン留学。帰国後は、DIESELの広報宣伝部を経てフリーランスとなる。現在は、鎌倉に暮らし、Nature evangelist (ネイチャーエバンジェリスト)、森林セラピーガイドとして活動中。@kiyorin_n
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