これまで国内46都道府県・世界40か国を訪れ、食べて、語らって、その土地の暮らしに触れながら、旅をしてきた平山遥さんのコラム。連載第5回は、コーヒーの産地・中米グアテマラへ! 色鮮やかな農園で知られざるコーヒーの魅力にふれると、日常の一杯の楽しみ方がグッと深まります。
#5 苦手だったコーヒーが、毎日愛でるものへ。日常を変えたアメリカ大陸旅での一杯。<前編:アンティグア>
プロローグ 〜ブラックコーヒーは、単なる眠気さましのドリンクでした〜
世界中に熱狂的ファンをもつコーヒー。わたしもカフェラテを片手に仕事するのが日常です。ただ、コーヒー(特にブラック)の味を本当に好んでいたかといわれるとうそになります。コーヒーの似合う大人になりたい。カフェインで眠気をさましたい。なんならブラックの苦味は一口で十分、というのが正直なところでした(笑)。そんなど素人が35歳でコーヒー中毒になったきっかけの旅を、前編・後編に分けてご紹介します。
▲豆を挽いてドリップコーヒーを味わう朝は、至福のひとときです
▲今では自分で作ったコーヒーカップ&ソーサーで飲むほどの偏愛ぶりを発揮中(笑)
コーヒー苗が喜んで育つ、火山地帯「アンティグア」
2019年12月の中米周遊で訪れたのは、グアテマラの高地に位置する「アンティグア」。スペインによる植民地時代の影響を受けていて、街全体がカラフルです。SNS映えするカフェもそこらじゅうに溢れていて、まさに女子旅向きの観光地!
▲アンティグアのシンボル「アグア山」とポップカラーのお家が共存する絶景
▲石畳の道をぶらぶら歩いているだけで、美しい遺跡にたくさん出会えます
もうひとつの顔は「コーヒー豆の産地」です。グアテマラの国土の約7割が火山に囲まれた山岳地帯。とりわけアンティグアは、厳しい寒暖差や適度な雨量、ミネラルを豊富に含んだ火山灰の土壌など、コーヒー栽培には絶好のエリアなのだとか。ここに来てコーヒーを飲まないわけにはいきませんよね。滞在3日目、「フィラデルフィアコーヒー農園見学ツアー」に参加してみました。
▲歩いて見学するには広すぎる敷地なので、大きなトラックで農園内を移動します
▲時折、遠くに見える山の頂から噴火の煙が立ち込めるのが見えます
コーヒー豆ができるまでの長旅は、真心づくしで、美しい。
2時間のツアーでは、苗栽培から豆の袋詰めまでの流れに沿って案内してくれます。コーヒー苗とはこの日が初対面。椿の葉っぱに似たつやがあり、部屋の観葉植物にしたいフォルム。彼らのまわりには、オーストラリア原産の「シェードツリー」が寄り添い、直射日光や強い風から守っています。まさに生産者の知恵、自然の共生を感じさせる光景です。
▲アラビカ種のコーヒーは、案外強い日差しには弱いという新発見がありました
▲苗ひとつひとつに水が行き渡るよう、水やりをしている様子に感服です
苗から木まで成長を遂げたエリアでは、たくさんの赤い実がなっていました。この「チェリー」収穫は熟練ピッカーによる手作業!せっかくなので、私も収穫をしてみることに。一粒口にふくんでみると、果肉がとてもジューシー。その甘さに味覚が驚いたことを記憶しています。コーヒーに甘いという単語が結びつくなんて思いもしませんでした(笑)。
左/鮮やかな赤色をしているコーヒーの実は「チェリー」と呼ばれています
中・右/熟度を瞬時に見極めて、丁寧に収穫する姿は、本当に美しかったです
収穫された実たちがコーヒー豆に仕上がるまでの工程(フリーウォッシュ・乾燥・脱穀・焙煎)も、五感全開でじっくりと観賞しました。発見と驚きの連続で、「今まで何も知らずにただ飲んでいたんだなあ」と痛感。この旅以降、造詣が深まったことでコーヒー一杯の感じかた、愉しみかたががらりと変わりました。
左/水洗いした種をそのまま数日天日干し。出来栄えを選別して乾燥しています
右/豆が均一に乾燥するように、定期的にスコップでならす作業も必要なのだとか
淹れたて一杯の旨味をひきたてるのは、「しゅわしゅわ」でした。
ツアーのフィナーレを飾るのは、淹れたてコーヒーの試飲タイム。コーヒーと一緒に意外なものが運ばれてきました。それはなんと、ショットグラスに入った「炭酸水」。カフェのスタッフによれば、炭酸水を飲んでからコーヒーを味わうと、コクや酸味がきわだつのだそうです。なんて粋なたしなみでしょう!実際ひとくちめがクリアで、苦味も美味しい。本場の一杯で、酸味強めが好みだと気づかされました。
すっかりコーヒーに魅せられてしまい、次に訪れたコスタリカでもコーヒー三昧。しまいには、コーヒーの新しい文化が生み出される街「ポートランド(アメリカ)」にも足を運んじゃいました(笑)。後編では、ポートランドで体験したコーヒーの新世界へご案内します。
▲農園に併設されたカフェのオープンテラスで、堪能することができます。
▲本場の素敵な習慣に感化されて、帰国後すぐに炭酸水用のショットグラスを購入
これまでの連載はこちら▶おいしい旅の記憶
平山 遥 Hirayama Haruka
カナダ・トロント生まれ、東京育ち。数年前から鎌倉暮らし。リクルートコミュニケーションズで、広告制作ディレクション・WEBマーケティング・サービスデザインの領域に従事。現在はコンサルタントとバイヤーという二足のわらじに奮闘中。週末の海辺散歩、月に1度の国内旅行、年に1回の海外旅行でリトリートするライフスタイルを満喫している。Instagram:@travelife_haruka0530