GOKOTI平山遥さんおいしい旅の記憶

これまで国内46都道府県・世界40か国を訪れ、食べて、語らって、その土地の暮らしに触れながら、旅をしてきた平山遥さんのコラム。連載第4回は、南米のコロンビアへ! “塩”が効いた今回の旅路は、ファンタジーの世界へ迷い込んだような絶景から始まります。 


#4 コロンビアの“塩味”が、泣けてくるほど、こころを温めてくれました。



プロローグ 〜ネガティブイメージが先行し、びくびくしながら入国したコロンビア〜

コロンビアという国に、どのような印象をもっていますか?サッカーワールドカップで日本代表が対戦したことのある南米の国、といったところでしょうか。ネットで検索すると、コロンビア渡航を危険視する情報をたくさん目にします。そのせいもあってか、「マフィアが多く、麻薬が出回る危ない国」という先入観がありました。北米〜南米縦断の一人旅で中米コスタリカを満喫していた2019年12月上旬。次の行き先に隣国コロンビアを選ぶか、ぎりぎりまで悩みましたが、意を決してコロンビアの首都ボゴタに降り立ちました。


世界最大の十字架が地下に眠る「塩の教会」。全身に感動がかけめぐりました。

コロンビア行きを決めさせた存在、それは「塩の大聖堂(Catedral de Sal)」です。ボゴタから車で約1時間、シバキラというのどかで小さな街にあります。もともと塩鉱山だった場所を掘り起こして作られたカトリック教の地下教会で、総延長約400km・地下4階相当のスケールを誇るのだとか。すべてが塩でできている教会なんて聞いたことがなかったですし、想像もつきません。この塩の教会をひとめ見たいという欲求が、不安を遥かに凌駕してしまいました(笑)。

現地ガイドの説明に耳を傾けながら、真っ暗で入り組んだ地下を散策。メインの大聖堂へと続く道のりには、イエス・キリストが十字架に架けられて命を落とすまでの「苦難の道」を表現する14ものスペースがあり、それぞれに十字架・祈祷台が置かれています。類を見ないこのミステリアスな地下空間を歩いていると、次第にRPGゲームの世界に入り込んだかのような気持ちになってきます。


▲第一の礼拝スペース。「INRI(イエス・キリストの磔刑においてその十字架の上に掲げられた罪状書きの頭字語」の文字が塩の壁に刻まれています

ひとつの塩岩から切り出された十字架が、柱のように天地をつないでいます


▲LEDに照らされるモニュメントは、照明の色によって表情を変えます


メインの大聖堂が目に飛び込んできた瞬間に、全身に鳥肌がたち言葉を失った感覚を、今でも鮮明に覚えています。地下に巨大な空間が開けているさま、オルガン音の壮大な反響、何もかもが前代未聞。私の乏しい語彙力では表現できないスケールが、ここにはありました。世界各国の芸術性あふれるチャペルやカテドラルをたくさん見てきて、つど感動をもらってきましたが、「塩の教会」を前にしてはかすんでしまうくらい、圧倒的な感動と衝撃をもらいました。


▲塩壁をくり抜いて作られた、全長16mにおよぶ巨大十字架。少し離れたふもとには、ミケランジェロの彫刻レプリカが佇んでいます


スープの濃厚でまあるい味が、こころをほどき、家族にしてくれました。

「塩の教会」ですっかり心を掴まれ、コロンビア滞在を延ばすことに。さっそく料理教室を予約しました。翌日迎えにきてくれたのは、優しさがにじみ出ているお父さんとクールビューティなお母さん。彼らとともに、ご近所のスーパーへ買い出しに行きました。



▲こぢんまりとしたスーパーでも充実した品揃え。見たことのないカラフルな果物や調味料、生活感のただよう雰囲気にテンションが上がります


道中、どんな料理をつくりたいか聞かれてびっくり!なぜかというと、たいていの料理教室はメニューが決まっているので、好きなものをつくれるのは珍しいんです。わたしは迷わず「スープ」をリクエスト。おめでたい日とかお祝いごとに振舞われる特別な料理ではなく、あくまでも家庭の味にこだわりたかったから。ふたりの提案で、コロンビアの食卓によく並ぶスープ「アヒアコ(Ajiaco)」と「揚げバナナ(Pataconas)」をつくることになりました。


▲「揚げバナナ(Pataconas)」をお手伝い


▲熟していない緑色のバナナをカットして、
軽く揚げます。それを潰して平たくしたら、再度表面がさくっとするまで揚げて、塩で味付け。たったこれだけ。ぴり辛サルサソースと食べると、お酒にあうおつまみに!


クリスマスの装いをしたお家では、娘さんふたりと息子さんが迎えてくれました。料理を教えてくれるお母さんは英語を話せないので、お父さんと長女のジェニファーがそばで通訳してくれることに。サービス精神旺盛で、調理の最中に次々と南米のトロピカルフルーツを振る舞ってくれ、コロンビアの代表的な蒸留酒もショットで何杯も勧めてくれちゃうお父さん。調理の大半をお母さんにお任せするカタチになってしまいました(笑)。


▲左/たくさんの可愛らしいクリスマスドールが飾られ、キッチンまで華やかでした。 右/サトウキビでつくられ、八角で香りづけられたコロンビア産のリキュール


今回のメインディッシュであるスープ「アヒアコ(Ajiaco)」。調理方法は簡単で、日本でも再現がしやすいものです。ぶつ切りした鶏肉をパクチーなどの香草の束と一緒にボイルし、じゃがいもと大粒のとうもろこしを入れて煮込みます。じゃがいものカタチがなくなるくらい、トロトロに煮込むのがポイントです。器に装ったあと、仕上げにサワークリームとケッパーをくわえ、アボガドとライスをサイドに盛りつければ完成。とうもろこしの甘み、サワークリームの酸味、ケッパーのほどよい塩味が調和する濃厚なスープは、誰もが好きなやさしい味でした。みんなで食卓を囲んでいるからより美味しく感じられ、美味しいものを共有している時間が、わたしをこの家族の娘にしてくれました。


▲家庭によって味付けが異なる、「おふくろの味」を象徴するスープです


娘の出身である日本の文化やことばにみんな興味津々。「いただきます」の挨拶や「お父さん」「お母さん」の呼び方を教えると、何度も復唱(笑)。その様子が本当に愛おしくて。なんと帰りは家族全員で私をホテルまで車で送ってくれました。ひとりひとりと(シャイな息子くんとも)ハグして、別れを惜しみました。素敵な家族に出会えた運はもちろんのこと、こころを結ぶ料理のチカラには、感謝せずにはいられません。


▲記念に撮った一枚。笑いの絶えない家族時間は、今でも色褪せない思い出です

 

エピローグ 〜また会うために、手巻き寿司を振る舞うと約束をしました〜

今でもそれぞれと定期的に連絡を取り合い、先日は長女の結婚をオンラインでお祝い。怖いと思っていたコロンビアは、今の私にとっては第二の家族が待っていてくれる場所となっています。「次またハルカがコロンビアに来た時には、手巻き寿司をうちで作って欲しい」別れ際に交わしたお父さんと約束を実現するために、今からどんな寿司パーティにしようか思考をめぐらせています。

 


平山 遥 Hirayama Haruka
カナダ・トロント生まれ、東京育ち。数年前から鎌倉暮らし。リクルートコミュニケーションズで、広告制作ディレクション・WEBマーケティング・サービスデザインの領域に従事。現在はコンサルタントとバイヤーという二足のわらじに奮闘中。週末の海辺散歩、月に1度の国内旅行、年に1回の海外旅行でリトリートするライフスタイルを満喫している。Instagram:@travelife_haruka0530

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