#9 新しい家を馴染ませながら、家づくりは続く

こんにちは、ライターの二木薫です。このブログでは、夫婦ふたりで東京から鎌倉に引っ越し、「この町で理想の家を建てよう」と奮闘する記録を綴っていきます。「鎌倉が好き」「鎌倉に住んでみたい」という人に向けてというだけでなく、理想の暮らしや家づくりについても皆さんと一緒に考えていけたらな、と思っています。

家が建つまでの工事期間はおよそ半年、長いようで短かった日々の振り返りにお付き合いいただきありがとうございました! 締めくくりに、家づくりの楽しみのひとつでもある、インテリアのお話をしようと思います。


新築ならではの心地よさと緊張感

まっさらな土地に基礎ができ、壁や屋根ができ、床が貼られて、形づくられてきた我が家。「施主検査」に立ち会った時は、感動もひとしおでした。「施主検査」とは、引き渡し前に建物の状態をチェックすることです。

施工会社さんと一緒に、傷は無いか、図面通りかどうか、設備は稼働するか、細かい部分まで3時間ほどかけて見てまわりました。検査では大きな不具合はなく、一ヶ所だけ、引き戸の建て付け具合を修繕してもらったくらい。

「今後も何かあれば、いつでも相談してください」と言っていただけたのにも安心できました。余った蜜蝋や、小さなボトルに入った壁の塗装材も分けていただき、自分たちでもメンテナンスできるようにしています。

荷物が運びこまれる前に、何も置いていない状態の新居を訪れました。真っ白な壁、傷ひとつない、ピカピカの空間。これから始まる暮らしに心が踊ります。


▲引っ越し前のまっさらな新居。清々しい木の香りと、シミひとつ無い空間に、思わず話声もヒソヒソと


いよいよ、新居に使い慣れた愛着のある家具たちがやって来ました。前の家で使っていた家具をしっかり活かせることや、気持ちよいほどのシンデレラフィットも、注文住宅ならではの嬉しいポイントです。

懐かしい面々が揃った家に、かえって漂うのは、おろしたての白いスニーカーのような真新しさ、うっかり汚してはいけないような緊張感......。どこかまだ自分のものになりきっていない感覚というのでしょうか。そんな空気感を和らげてくれたのが、ヴィンテージアイテムたちでした。


インテリアのポイントはヴィンテージ

家づくりの初期ですでに予定していたヴィンテージアイテムは、土間の古建具です。古建具の再利用は、施工会社のエンケルヒュースさんの取り組みのひとつでもあります。庭へと続く4枚続きの掃き出し窓に、障子代わりに古建具を入れてみることにしました。

建具を探しに向かったのは、葉山の古道具屋『桜花園』。お茶の道具や雑貨、ドアや窓枠など、時を重ねた道具や建具がひっそりと佇んでいて、いつまでも探検したくなるような空間でした。

そこで出会ったのは、4連のガラス戸。金沢八景の古いお屋敷からやってきたという70年ほど前のもので、いかにも昭和なたたずまいに、懐かしさと親しみを感じます。


▲昔の建具は高さが低く180センチも無いくらい。1Fの掃き出し窓はこの建具に合わせているので、最近の住宅にしては低めの窓になっています

 

そして、この古建具のある土間に敷いたのは、鎌倉のインテリアショップ『Stove(ストーブ)』で購入したヴィンテージラグ。トルクメニスタンの「ブラハ絨毯」と呼ばれる、バラの模様が織り込まれた手仕事が美しい1枚です。天然染めの赤は、派手すぎずとてもシックで、土間に温かみを添えています。

暖炉 ペレットストーブ
▲新しいものと古いものが互いを引き立てあい、1Fの土間ホールは落ち着いたくつろぎのスペースに

 

最後にご紹介するのは、リビングに付けたヴィンテージのシャンデリアです。代々木上原のインテリアショップ『ARKESTRA(アーケストラ)』に伺った際、見たことのないデザインに一目惚れしてしまいました。

小ぶりな白熱球が並ぶ、真鍮製のシャンデリアはアメリカのヴィンテージランプだそう。照明を購入するつもりはなかったのですが、どうにも心から離れずにとうとうお迎えすることにしました。


▲使い込まれたからこそ生まれる真鍮の美しい色。LEDでは出ないほんのりした灯りも、心地よさに一役買っています

 

新居に加えたヴィンテージアイテムたちに共通するのは、長い時間の中で育まれてきた独特の色合いや、たたずまい。いぶし銀のような存在感によって味わい深さと温もりが生まれ、新しい家と自分との距離がぐっと縮まった気がします。

また、誰かが大切にしていたものを引き継いでいく循環に加われたことも、感慨深い体験となりました。私たちと一緒に過ごした後も、どこかでまた誰かの営みに寄り添っていってくれたら嬉しいと思っています。


▲時に、人の人生よりも長く残っていく家具や道具。今ここにある相棒たちも、いつか誰かのもとで、また活躍してくれるかもしれません


家づくりは暮らしづくり

新しい家は以前よりも少し広くなりましたが、引っ越しを機に、持ちものをかなり処分しました。壊れていながら惰性で使っていたもの、何年も着ていない服、謎の健康グッズ、いつのものか分からない缶詰......。

それにしても、家というものはブラックホールのようです。必要以上に溜め込んでしまったものに感謝とさよならを告げたことは、ある意味カタルシスにもなりました。今後はなるべく溜め込まず、老後は軽やかに暮らしたいと考えています。

引き渡しも入居も無事に終わりましたが、実はまだ手をつけていない部分が、玄関まわりの外構と庭の植栽(新築はたいてい外構が後まわしになりがちだそう)。家づくりというものはここで完全に終わり、というものではないのですね。自分の願う暮らしを見つめながら、少しずつ、少しずつ、たくさんの人の手を借りて積み重なっていくものなのでしょう。

大好きな鎌倉の街なみに、私の暮らしが溶け込んでいく。そんな日々を楽しみながら、暮らしも家もゆっくりと作りあげていこうと思っています。
(完)

これまでの連載はこちら▶海街で家づくり

二木薫 Niki Kaori
東京にてエンタメ企業・メディア系企業に従事した後、2014年鎌倉へ移住。丁寧な暮らしに憧れつつ、片手にはたいてい甘いものかお酒。基本ぐうたらしていたい四十路フリーランスライター。工藝、フード、IT、地方創生...ジャンルに関わらず、なにかを“つくる人”の取材をしています。Instagram:@kaorilittle

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