#1 40代からはじめる、わたしらしい暮らし

もし、自由に住みたい場所を選べるとしたら、皆さんはどこに住んでみたいですか?

はじめまして、ライターの二木薫です。この連載では、夫婦ふたりで東京から鎌倉に引っ越し、「この町で理想の家を建てよう」と奮闘する記録を綴っていきます。「鎌倉が好き」「鎌倉に住んでみたい」という人に向けて、というだけでなく、理想の暮らしや家づくりについても皆さんと一緒に考えていけたらな、と思っています。

第1回は、自己紹介も兼ねて、どのようにして鎌倉へやって来たのかを簡単にお話ししますね。


▲暮らしそのものと向き合いたい、そう思ったのは30代のある日でした

 

プチ移住、東京暮らしから鎌倉へ

さて、すべての始まりは「理想の暮らしって何だろう」という疑問から。もともと、「いつか鎌倉に住みたい」というのは夫の夢でした。結婚して5年以上経ち、気づけば30代も後半。会社と自宅を往復し、帰って寝るだけの忙しい東京の日々、その先にあるものが本当に自分のほしいものなのかな......。

次第に大きくなる疑問が、「いつか」という漠然とした将来像から一歩踏み出すきっかけになりました。

当時のわたし自身は、どうしても鎌倉がいい、というこだわりはなく、ほんのりした憧れに近かったかもしれません。都内から1時間半ほどの鎌倉なので、移住というと大袈裟なようですが、東京生まれ東京育ち、他の土地で暮らすのは初めてのことです。思いきって引っ越してみたのが2014年の夏。そこでは期待以上の生活が待っていました。


▲いざ鎌倉。ビッグスマイルの狛犬さんが出迎えてくれました

自然が身近、鎌倉での日々

関東でも人気観光地の鎌倉。歴史を感じる町並みや、素敵なカフェやレストランが並び、皆さんも想像する通り、さすが見どころがいっぱい、というのが第一印象。

特筆したいのは、都会的な魅力も備えつつ、海も山も町から徒歩圏内という点です。身近なところで自然に触れリフレッシュできるのは、移住してよかったことのひとつ。アウトドア派でもないのに、自然が身近にあることでこんなにも気分が変わるという体験には、自分でも驚きます。仕事の合間や買い物の途中、浜辺や森に行って5分でもボーッとすることで、どんなに心が休まったでしょうか。休日はほぼ鎌倉近辺で過ごすようになっていたので、コロナに関わらずライフスタイルはあまり変わっていないかもしれません。


▲夕飯の買い出しの途中で寄り道。駅近の祇園山はおすすめスポット。地元のおばあちゃんも手ぶらで散歩していたりします

新鮮な食材を求めて漁港や産地直販売所へ行くのも、鎌倉生活の楽しみになっています。市場で生産者からおいしい食べかたを教えてもらうのは、いい体験ですよね。市場や店先に並ぶ食材の変化で季節の移ろいを感じることも、鎌倉に来てから意識できるようになりました。

余談ですが、鎌倉生活で驚いたことのひとつが、食べものを狙ってくるトンビ。戸外でお弁当やお菓子でもつまもうものなら、それは華麗に奪い去っていくのです。あんなに大きな野生動物が、駅のそばでも商店街でもビュンビュン飛んでいるのには圧倒されました。皆さんも鎌倉で食べ歩きをされる際には、気をつけてくださいね。

 

顔の見える町、わたしの町

鎌倉で暮らすうちに、町の人が顔を覚えてくれるようになりました。個人経営の多い鎌倉のレストランやカフェのオーナーさんたちは、気さくに土地のアレコレを教えてくれ、面白い人も紹介してくれる頼もしい存在になりました。

サーフィンなどのマリンスポーツだけでなく、ブッククラブ、スパイスカレーの会、俳句サロン、季節の手仕事、木工や陶芸体験。知るかぎりでも、大人が個々でつながりを持ち、遊び、学ぶ場がたくさんあるのも鎌倉の特徴だと思います。そうした時間は、地域に馴染み、暮らしを豊かに、楽しくしてくれる大きな要因でした。


ご近所さんに誘われて、商店の一角を借りて味噌づくりに挑戦。みんなでつくるから、よりおいしく

共働き・夫婦ふたり暮らしの生活では、今までどこに住んでいても地域の知り合いは増えず、仮暮らしのような気持ちで過ごしてきました。

移住した鎌倉での生活では、町や人との多様なつながりがいくつもあり、「ここは、わたしの町だ」と、初めて心から感じることができたのでした。そう思えると、町への愛着や災害などのいざという時の心強さも大きくなります。今までの暮らしの中で抱えていた、部外者意識や不安がスッと消えていくようでした。


在宅勤務で変わった、家そのものへの思い

あっという間に6年が経ち、2020年。新型コロナウイルスの出現によって大きな変化が訪れました。家で過ごす時間が長くなったことで、家は「寝に帰る箱」ではなくなりました。使いやすく、心地よく、安心して寛ぎたい……。自分の中で、住空間の重要度が高まった一年になりました。

それにしても、自宅できちんと仕事できる場所を確保するのは本当に難しいですよね! 1L D Kマンションの我が家、仕事スペースの問題は容赦なく降りかかります。書くことが仕事の妻はダイニングテーブルで、会議の多い夫は唯一の個室である寝室へサイドテーブルを持ち込み、なんとかやりくり。しかし、話し声でライティングに集中できないことや、ビデオ会議中に物音をたてないよう息を潜めているのもプチストレス。夫は夫で、小さな部屋の中、無理な体勢での仕事で腰痛が爆発。「こうなったら、ふたりで働きながら、居心地よく暮らせる家に住もう」という悲願が生まれます。


▲個室は寝室だけの我が家。仕事スペースの確保に悩みました 

こうして、鎌倉での新たな家探しが始まりました。家の探しかたも、以前なら通勤時間が主な選択基準。多分、家とは「会社への発着地」という感覚だったのだと思います。今は働きかたも多様になっていて、住む場所をもっと自由に決められるようになってきましたよね。従来の選択の枠組みを外して、町そのもの、人、地域の文化など、心が動くきっかけに素直に従ってみると、自分らしい暮らしへ一歩近づけるような気がしています。

まずは新築や中古物件を探すものの、コロナの影響で湘南地域の不動産売買が活発になり、どこも驚くほどあっという間に売れてしまいます。そんな中、運命の土地へ導いてくれたのは何と我が家の犬だったのです。
(つづく)


▲難航していた住まい探しは、猫の手ならず犬の手で解決?

 

二木薫 Niki Kaori
東京にてエンタメ企業・メディア系企業に従事した後、2014年鎌倉へ移住。丁寧な暮らしに憧れつつ、片手にはたいてい甘いものかお酒。基本ぐうたらしていたい四十路フリーランスライター。工藝、フード、IT、地方創生...ジャンルに関わらず、なにかを“つくる人”の取材をしています。@kaorilittle

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