GOKOTIアイテムストーリー #3|毎日使う、ずっと使える。日常におおらかさをくれる金属の生活道具 BY WATO

GOKOTIアイテムストーリー #3|毎日使う、ずっと使える。日常におおらかさをくれる金属の生活道具 BY WATO

GOKOTIで取り扱っている表情豊かなアイテムたち、それぞれのモノづくりの背景にある物語をご紹介するコーナーです。日常の彩りに、ギフト選びのお供に、素敵な出会いがありますように。

made in KAMAKURAの鍛金クラフト BY WATO

今回は、鎌倉を拠点に活動されている『WATO(ワト)』さんのご紹介です。独特のたたずまいが美しい金属工芸の生活道具は、GOKOTIの店舗でも思わず手に取ってしまう人が続出。金属という素材の面白さや制作のこだわり、作品へ込めた思いを、作り手の小笠原加純さんにうかがいました。(聴き手:ライター 二木薫)


WATO小笠原加純 さん、斉藤里司さん
▲『WATO』代表・小笠原加純 さん、『WATO』デザイナーで夫の斉藤里司さん。ものづくりのアイデアやデザインは、夫婦の会話から生まれることも多いのだとか

 

金属工芸で、人とものの輪をつなぐ

ーーこんにちは! 自己紹介を兼ねまして、小笠原さんがものづくりの道へ進んだきっかけについて教えていただけますか。
 
私の父がオートバイのエンジニアをしていたので、子どもの頃から「自分もものづくりの道に進むんだ」と自然に思っていましたね。
工業系の大学を目指していたのですが、中身ではなく「外側からデザインするものづくり」に興味が出てきたんです。例えば、車だったらエンジンじゃなくボディを作るとか。ちょうど新規開講した地元の大学がデザインに力を入れていて、そこでインダストリアルデザインを学ぶことにしました。

ーーデザインだけでなく、日本の伝統技術である「鍛金」も専門に学ばれたのだとか。

大学の基礎課程で様々な素材を学ぶ授業があり、そのひとつが金属でした。教授から「なかなか筋がいいな」と言われ、そんな風に褒められたのは初めてだったし、金属工芸自体がとても面白くて、それ以来課題という課題を全て金属で作っていました。
その後、金属工芸を専門的に学ぶため、さらに富山大学の高岡短期大学部専攻科鍛金専攻へと進みました。夫の斉藤里司と『WATO』として活動しはじめたのは、2010年からです。

ーー『WATO』というブランド名の由来や、コンセプトを教えてください。

人とものの輪をつなぎ、そこから日本の新しいものづくりを発信する、という意味を込めています。「輪と輪」・日本の「和」・「ワッ」という感動をうむもの、から生まれた屋号です。



WATO|鎚目模様の真鍮のジェラートスプーン
▲ヨーグルト、プリン、ジェラートに。日々のちょっとした瞬間に新鮮な楽しさが生まれる『鎚目模様の真鍮のジェラートスプーン』

少しずつ、繰り返し行われる「対話」

ーー制作工程での面白さ、あるいは難しさはありますか。

金属は硬いから大変だと思われますが、熱すると柔らかくフニャフニャになるので、実は加工しやすい。他の素材より金属の方が、私には使い勝手がいい存在なんです。
もちろん、作り手と素材の相性もあると思います。金属が自分の性分に合うなと思うのは、鍛金は加工中にある程度なら修正することができるから。もちろん、修正自体難しい作業ですが、余白があるというか。まっ平らな板状から熱を加え、少しずつ繰り返し形づくるので、工程の間で形との「対話」ができる。そういう部分が、自分にとっての面白さなんだと思います。


▲金鎚で金属を叩き、加工する伝統技術の「鍛金」。一枚一枚繰り返し丁寧に向き合うことで、唯一無二の形や模様がうまれる


ただ、この素材だけ扱っていると色が恋しくなってきます。合金以外の普通の金属は、陶芸やガラスと違ってカラーバリエーションがあまり無いんです。金色、錫メッキや銀のシルバー色、緑青の緑、酸化の黒ぐらい。他領域の職人さんとコラボレーションして、漆で色をつけた作品を作るのも大好きです。

ーーGOKOTIの店舗では、作品を思わず手に取って眺めるお客様が多いそうですよ。

皆さん、触ってくれるんですね! 作品を見ると、まず重いんじゃないかと思われる方が多いのではないでしょうか。想像以上に軽いんですよ。「金属=冷たい、硬い」とマイナスイメージも持たれやすい素材なので、手に取っていただいた時に柔らかな印象になるよう、叩いたり磨いたりしています。
もともと、日本は木と土の文化なので、珍しさもあるのかもしれません。インド、中国、韓国などでは金属器が古くから広く使われていて、今も高貴で貴重なものとして認識されています。宮廷で使われたり、嫁入り道具になっている国もあるそうです。

 

自分が使ってみることで、人に響くものになる

ーー月の名前にちなんだ作品も多いですね。作品のアイデアはどんな風に浮かんでくるのですか?

7年ほど前に、作品を見た陶芸家の友人に「お月様みたいだね」と言われたことがきっかけで、月を意識して作品名を決めたり、シリーズ化してみたりしました。

WATO|立待月|GOKOTI
▲真鍮素地仕上げの『立待月(たちまちづき)』。陰暦八月・十七夜の月を指す秋の季語を名前に持つ、趣深い小皿

もともと私のものづくりは、「作るのが楽しい」というシンプルな思いからスタートしているんです。何かをインスピレーションにするというより、使う人から「こんなものがほしい」と言ってもらって、作品を作ることが多いかもしれないですね。

ーー金属工芸というと、アクセサリーや楽器、仏具などを想像しますが、小笠原さんは主に生活で使う道具を作られていますよね。

ほしいと言われたものを作っていたら、こういうラインアップになりました。
アクセサリーに関しては、私自身がほとんど身につけないんです。自分自身があまり使わないものは作るのが難しいと言うか、やっぱり人にも響きにくいと思うんです。

ーー製作されている上でのポリシーや、大切にしていることはありますか。

まずは、自分自身の生活の中で作品を使ってみます。使ってみないとお客様にも自信を持って伝えられないですよね。そのままでOKな時もありますし、実際に使ってみて気になる部分は改善し、完成させていきます。

日々おおらかに使う、金属のうつわ

ーーうつわとして使う時、おすすめ、または避けたほうがいい食材はありますか。

基本的に、何にでも使ってもらって大丈夫なんですよ。経年で色が変わったうつわに強い酸性のものを載せると、ピカピカの色に戻ってしまうことがあるくらいです。
我が家では、サラダ、おにぎり、目玉焼き、アジ、カレーも載せますよ。たいていお客様の方が上手に使われていて、インスタグラムを拝見して「これ、私のうつわなの?」と喜んでいます。
真鍮なら、相性がいいと言うか個人的に素敵だと思うのはチョコレート。金色との対比が美しくて、食材が映えると思います。



WATO|GOKOTI
▲「熱いものや、匂いの強いものだって大丈夫ですよ。気軽に使うなら、コースターやお盆もおすすめ」と小笠原さん


ーー小笠原さんにとって、生活の道具としての金属の魅力はどんなところにありますか。

まず、丈夫で壊れない、割れない。うちの息子たちは、木のフォークをかじって食べてしまったり、食器を投げてしまうことも。でも、金属なら大丈夫、凹んでも直せますから、笑。
それから、熱伝導がいいので、銅の鍋やグリルパンで作った料理はやっぱり美味しい。朝、銅鍋で白湯を沸かしたりお味噌汁を作ると、これがいい味になるんです。銅のフライパンは油なじみもよく、よく目玉焼きやハンバーグを作ります。じっくり弱火で焼くことがポイントです。

ーー長く愛用するためのアドバイスをいただけると、嬉しいです!

作品は、お手入れがしやすい仕上げにしています。特徴である変色を愉しむもよし、洗ったり磨いたりして、きれいな状態を楽しむのもよし。
使わないでしまいこむと、真っ黒(酸化による変色)になっていたり、少しついていた水分等の影響で、緑青(毒ではなく酸化膜)が出たりするので、日常的に使うことが長く愛用していただくためのポイントかと思っています。経年変色しても、お酢やクエン酸などで磨けばきれいに戻ります。

ーー手仕事の道具を使うなら、お手入れも丁寧にしっかりできないといけないのでは、とつい考えてしまうんですよね。

「扱いやお手入れが難しいのでは?」と聞かれることが多いのですが、作って使っている私自身、ぜんぜんマメな性格じゃない。使い終わったらすぐ乾燥させて......とは言いますが、私は気にせずラックにぽーんと置いて自然乾燥することも、笑。
繊細に取り扱わなくちゃいけないものでもないので、毎日好きなように使っていただき、経年変化する様子も楽しんでいただけたらと思います!


WATO|箸置きセット|GOKOTI
▲『真鍮の箸置きセット』は木製スタンド付きでギフトとしても人気。使いこむほど落ち着いた優しい表情に

 

いただいたご縁を大切に、鎌倉から発信していく

ーー今後作ってみたいものや、挑戦はありますか。

今年のささやかな目標のひとつが、やかんを作ること。技術的に複雑で難しいので、本当は嫌だったんですけど......、笑。小さな片手鍋を試作した時、お湯を沸かしてみたらすごく美味しくて、やかんもいいなと思いました。

ーー『WATO』さんのアトリエは鎌倉・大町にありますが、ここを拠点に活動されているきっかけはどんなことだったのですか。 

10年以上通っているバル『鎌倉美学』のオーナーさんの一言がきっかけでした。当時はまだデザイン事務所で働いていたのですが、やっぱり自分でものを作りたい気持ちが無くならず、そのバルで展示もやらせてもらっていたんです。「せっかくなら、鎌倉に引っ越してきちゃいなよ」と勧められたのが、全ての始まりです。



WATOアトリエ|GOKOTI
▲鎌倉・大町のアトリエショップ。物件探しもバルのお客さんが手伝ってくれたそう


ーー鎌倉でのご縁が『WATO』の誕生に深く関わっていたのですね。

このバルを起点に仲間や友達ができ、鎌倉で暮らし子育てをしながら、いろんな人に支えてもらっています。
成長の機会もいただいています。例えば、バルで知り合ったお茶の先生に「茶巾箱を作ってほしい」と、リクエストされたんです。茶道で使う道具なのですが、声をかけてもらわなかったら、絶対に作る機会もなかったと思うんですね。鎌倉は、支えてくれる仲間がいて、仕事でも成長できる場所。いただいたご縁で生かしてもらっている、そんな風に思っています。

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WATOの作品詳細は、こちら
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小笠原 加純(おがさわら かすみ)

金工デザイナー

鍛金技法をベースとした作品制作をすると共に、グラフィック、ウェブデザインも行う。
異素材(木工・金属・漆・蒔絵・石彫・ガラスなど)を扱う作家や職人さん達とのコラボレーションによるモノづくりも発信する。

1982
静岡県浜松市生まれ 鎌倉市在住
2005
静岡文化芸術大学 デザイン学部 生産造形学科 卒業
2005
JIDA 中部ブロック賞 卒業制作作品
2007
Lahti University of Applied Sciences(フィンランド留学)
2008
富山大学高岡短期大学部専攻科 鍛金専攻 卒業
2008~2012
横浜のプロダクトデザイン事務所にて勤務
2010~  
WATOとして活動開始
2012~  
作家/デザイナーとして独立
2013~2014
ウェブ制作の職業訓練校にて講師を勤める

2021 下記にて展示会予定
9月 新宿伊勢丹
10月 目黒「MIGOLABO」
12月 二宮「日用美」


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取材・文

二木薫 Niki Kaori
東京にてエンタメ企業・メディア系企業に従事した後、2014年鎌倉へ移住。丁寧な暮らしに憧れつつ、片手にはたいてい甘いものかお酒。基本ぐうたらしていたい四十路フリーランスライター。工藝、フード、IT、地方創生...ジャンルに関わらず、なにかを“つくる人”の取材をしています。@kaorilittle

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